第14回「ポワソン・ダブリルと桜の集い」レポート~4月1日にちなむ「4月の魚」のお菓子


4月1日の「ポワソン・ダブリル」に先駆け、2019年3月に第14回目の「ポワソン・ダブリルと桜の集い」を開催いたしました。今回は参加ご希望の方が多く、2日間の開催となりました。ご参加の皆様、お店の皆様、どうもありがとうございました。

フランスで「ポワソン・ダブリル(=4月の魚)」を呼ばれる4月1日の由来や風習をより多くの方に知っていただき、楽しんでいただけるようにと、このイベントを起ち上げたのは2006年のこと。 毎年、ポワソン・ダブリルの由来を学びながら、クラシックなスタイルからアレンジバージョンまで、様々なポワソン・ダブリルを食べ比べています。
今回は、下記のシェフ達に、シュクレやサレのポワソン・ダブリルを作っていただきました。


●横浜ベイシェラトン ホテル&タワーズ 武藤修司シェフ
パイ生地は、バターでデトランプを包み折るフィユタージュ・ランヴェルセでサクサクと軽く焼き上げています。
不知火の果実にライムが香り、パッションフルーツ味のクリームも爽やかなポワソンダブリルでした!
これはイベント用の特別仕様でしたが、ホテルのペストリーショップ「ドーレ」でも、今年初めて、苺のポワソンダブリルを4月1日~30日に販売しています。


●パティスリーカメリア銀座 遠藤泰介シェフ
銀座のお店らしく、フルーツやマカロンが盛り沢山の豪華なデコレーション!
パイ生地は軽く浮き上がらせながらもしっかり焼き込んであり、ザクザクした食感が楽しめました。
2台あるうち1台は、魚の目にチョコレートのまつ毛がついた女の子バージョンだったという、細やかなこだわりも素敵でした。


●ウエスト青山ガーデン 金子博文シェフ
皆があっと驚いた繊細なデコレーションケーキ!
「銀座ウエスト」が得意とするバタークリーム絞りのデコレーションをお願いしたところ、「鯛」と「ハリセンボン」をモチーフに、素晴らしい匠の技を見せてくださいました。
2色使いのウロコやヒレの絞りも、クラシックな技法が見事です。

ハリセンボンの方は、ジェノワーズとコーヒーバタークリームを重ねた、ウエスト伝統の味。
鯛の方は、カシスのバタームースがベースで、中にピスタチオ味の生地や、栗きんとんが隠れています。土台が「銀座ウエスト」の定番「ドライケーキ」の生地なのも嬉しいところ!
「銀座ウエスト」のツイッターでも紹介され、多くの方にご興味をお持ちいただきました。


●浦和ロイヤルパインズホテル 山下貴弘シェフ
山下シェフは、「浦和ロイヤルパインズホテル」初代シェフパティシエを務められた朝田晋平シェフに師事。最近、3代目のシェフパティシエに就任されました。
男女ペアによる製菓世界大会「ル・モンディアル・デ・ザール・シュクレ 2014」に出場し準優勝も遂げた若き実力派です。
フィユタージュ・ランヴェルセのパイ生地にアーモンドクリームを絞って焼き上げた土台。そこにカスタードクリームとジャージー乳の生クリームを合わせ、マラスキーノ酒を隠し味に加えたクリームを重ねて。
上にのせた苺は、福岡の「あまおう」を使用。山下シェフが得意とする飴細工を活かし、スペード形の魚パイに合わせたハート形の飴のプレートを別添えでご用意くださいました。
パイ生地のサクサクした口どけのよい歯触りが素晴らしく、とても印象的でした。
マラスキーノは「マラスカ」という種類のさくらんぼを原料とするリキュールですが、個性があるため、使いこなすのがやや難しいお酒でもあります。しかし、その利かせ方も上品でバランスがよく、シンプルな苺パイのポワソンダブリルの中に、丁寧なお仕事ぶりが感じられました。


●エリティエ 藤田智幸シェフ
2018年に店舗改装をしてリニューアルオープンした文京区白山の「エリティエ」さん。以前からランチを提供していましたが、お客様からもご要望が多く、2019年に入り、少し落ち着いてきたため再開。
そのため、今回は、お惣菜系のポワソン・ダブリルを作りたいとご希望くださいました。
パイ生地の土台に、赤ワインとフォン・ド・ヴォーで煮詰めたきのこのシャンピニオン・デュクセル。そしてクミンを利かせた軽めの味のラタトゥイユ。その上に、茄子、ズッキーニ、パプリカをフリットにし、フランボワーズ風味のソースヴィネグレットでマリネ。これをウロコに見立てて飾りつけています。
非常に手の込んだ作品で、感動!「塩味=サレ」ですが、木苺の甘酸っぱい風味を加えるなど、やはりパティシエらしい華やかさのある素敵なポワソンでした。


●プティサパン 成田博史シェフ
成田シェフは、「パティスリー・タダシヤナギ」で10年修業した後、「クリオロ」でも経験を積み、さらに「レストランARGO」で山下敦司シェフ(現在は外苑前「AIX:S」オーナーシェフ)より料理を学んだ方。
柳正司シェフのもとでは焼き菓子も長く担当し、「BUKOクリームチーズコンテスト2010」でも焼き菓子部門で優秀賞を受賞。ガレット・デ・ロワなどパイ生地も得意な方です。
今回は、料理の腕前もぜひ披露していただきたいと、サレ物をお願いしました。
オランダ産発酵バターを使ったパイ生地は、成田シェフがお好きな魚「センネンダイ」の姿をイメージしたそうです。
ノルウェーサーモンとスモークサーモンを合わせ、ヨーグルトやライム皮、レモン汁、シブレットなどを合わせたリエットと、スモークサーモンのスライスを重ね、ジャガイモをターメリックで煮たものを丸く抜きウロコのように並べ、レモンとライムの皮、ザクロを飾って仕上げています。塩味のポワソンながら、色彩も美しく、まるでお菓子のような仕上がりもさすが!
魚を使ったポワソン・ダブリルを作りたいと、「酸味や辛味の力でいかようにも変化する」ことができると師匠から教わったサーモンを選んだとのこと。まさにそのとおり、サーモンの様々な味や食感を味わうことができ、”魚を満喫”できるポワソンでした。


●パティスリーヨシノリアサミ 浅見欣則シェフ
フランスのアルザス地方で長年修業し、老舗パティスリーのシェフも務めた浅見シェフ。そのスペシャリテの一つは、アルザス地方の”黒い森”のイメージで生まれたご当地菓子、チェリーとチョコレートを使った「フォレ・ノワール」というお菓子です。
今回はその「フォレ・ノワール」を彷彿とさせるベースで、チョコレートのスポンジ生地の間にチョコレートムースとフランボワーズムース、バニラムースを層にし、ダークチェリーをサンド。上にのった2匹の双魚はキャラメルチョコレートのムース。ずっしりと重たさがあり、ボリュームたっぷり!しっかりと食べ応えがあり、ちょっぴりユーモラスな雰囲気のポワソン・ダブリルのガトーでした。


●ホテル雅叙園東京 生野剛哉シェフ
日本の伝統文化を大切に、スイーツにも「和」のモチーフをよく採り入れている「ホテル雅叙園東京」のパティスリーショップ「PATISSERIE栞杏1928」。
今回も生野シェフは、「錦鯉」をモチーフにした、オリジナリティに富んだポワソンを作ってくださいました。
ホワイトチョコレートにあでやかな色彩を施した鯉の姿は、薄い熱可塑性樹脂の板を熱して軟化させてつくる自作の型で制作。何日も前からご準備くださった大作です。
魚の中には、桜と抹茶、ホワイトチョコレートを使ったムースケーキが収められていて、これも日本の春らしい味わい。
運ぶには重たく大きすぎるからと、生野シェフ自ら会場にお届けくださって、シェフにお会いできて直接お話をお伺いすることのできた参加者の皆様も、大喜びでした!


●Maison Weniko 宮本亜希子シェフ
水戸市の「Maison Weniko(メゾン・ベニコ)」から、焼き菓子のポワソンをお送りくださった宮本シェフ。
パイ生地には高千穂発酵バターと北海道産小麦粉を使用。中には、アーモンドクリームとカスタードクリーム、茨城県産の丸干し芋をペーストにしたものを混ぜたクリームを焼き込んでいます。
数ある干し芋の中でも、宮本シェフが選び抜いたこだわりの生産者さんによる丸干し芋を使用。しっとり、ねっとりした香り高い芋クリームは、素朴ながら何とも言えないやさしい味わいでした。


●クラブハリエ 山本隆夫シェフ
こちらはこのイベントのための特注品ではなく、「クラブハリエ」で作られている「めで鯛」というお菓子です。山本グランシェフ曰く、「はっきりはわからないですが、自分と同じくらいの年齢なのではないかと思います。そのくらい昔から作られていました。」とのこと。
鯛形パイの中にりんごのフィリング入りのアップルパイ。当初は大サイズのみだったそうですが、途中から小を発売するようになったとのこと。今回はせっかくなので、ピンク色の箱の大と、白い箱の小を1匹ずつお願いしました。
りんごも存在感のある大ぶりカットで、パイ生地が籠目になって中が透けて見えるのも素敵なデザインですね。
5日前までの要予約で、滋賀県内の直営店を中心に、東京では渋谷東急本店のみで受取可能です。お祝いの席でいただくのにぴったりですね。


●コンラッド東京 岡崎正輝シェフ
パイ生地の中にクレーム・ムースリーヌを絞り、苺を飾った王道のポワソン・ダブリル。
ですが、パイ生地は想像を大きく凌ぐほどしっかりと焼き込まれたもので、力強さが素晴らしい。苺やミントの爽やかさ、クリームのまろやかさを際立たせました。
トッピングにバルサミコ味の粒々したパール状のジュレを散りばめ、苺の酸味とバルサミコの酸味とのマリアージュが楽しめるといった、岡崎シェフならではのオリジナリティも発揮されています。
「コンラッド東京」にはペストリーショップが無いため、岡崎シェフのお菓子を持ち帰ることは難しいと思っていたのですが、記念日ケーキなども「予約いただければ対応します。」とのこと。

●コンラッド東京 山本紗希シェフ
山本シェフは、若手料理人のための日本最大級の料理コンペティション「RED U-35 2018」で「岸朝子賞」を受賞。現在、「コンラッド東京」のシェフ・ド・パルティ(部門シェフ)として、岡崎シェフとともに働いていらっしゃいます。
2019年1月から開催されていた、ホテル内のオールデイダイニング「セリーズ」でのいちごスイーツビュッフェに伺った際、お菓子のクオリティはもちろんですが、セイボリーの美しさと手の込みように感銘を受け、ぜひお願いしたいと希望したのが実現しました。
ポテトグラタン、赤ワインとデーツのミートソースを焼き込んだポワソンの上に、2色のズッキーニと茄子をウロコのように並べて。タイムとオレンジの爽やかな香りがアクセントに。濃厚なコクのあるミートソース味のインパクト大!と思いきや、タイムやオレンジがスッと清涼感を添えてくれます。
山本シェフのお勧めどおり、オーブンで少し温めていただいたところ、いっそう香り立ちも華やかになり、これまた素晴らしかったです!


桜の時期ということで、「アトリエうかい」の「ふきよせ さくら」や、「プティサパン」の「さくらのダコワーズ」も提供。
さらに、2018年7月の西日本豪雨災害で被害を受けた愛媛の南予地方宇和島市のみかん農家を支援しようと、「日本みかんサミット実行委員会」が呼びかけたクラウドファンディング事業「みかん農家応援プロジェクト」への参加で届いた、宇和島市吉田町産のみかんや西予市産のブラッドオレンジを使ったジュースも召し上がっていただきました。

フランスでは、ポワソン・ダブリルといえば、上司や先生の背中に魚の絵を描いた紙を貼り付けるなど「いたずらしてもいい日」。「サバ」シールを貼られた方にはお菓子をプレゼント!楽しい時間を過ごしました。
なお、2013年開催の会の様子は、NHKのEテレ『グレーテルのかまど ~パリっ子の4月の魚』の取材を受け、番組内でも、フランスでのポワソン・ダブリルの楽しみ方が紹介されました。
番組HP内のレシピはこちら

現在のフランスでは、春の時期に、復活祭(パック)にちなむ魚形チョコレートを見ることはありますが、ポワソンダブリルにちなむ魚のパイのお菓子を見かけることは、ほとんどないようです。
しかし、『グレーテルのかまど ~パリっ子の4月の魚』にご出演いただいたビゴの藤森シェフをはじめ、何人かのシェフ達から、かつてフランスで働いていらした頃、パイ生地に苺をのせて魚に見立てたお菓子を作っていたお店があったと伺います。
このイベントのためにご依頼したのがきっかけとなって、翌年以降もお店や催事でポワソン・ダブリルを販売してくださるお店も増えてきました。ユーモラスで可愛らしい魚の姿のケーキは、お客様にも喜んでいただいているようです!
今後も、ポワソン・ダブリルに因んだお菓子を作ってくださるお店が少しずつ増えるよう、この会を地道に続けていけたらと思っています。
皆様も、4月1日前後にポワソン・ダブリルのお菓子に出会ったら、ぜひ召し上がってみてください!

【ご報告】
この「ポワソン・ダブリルと桜の集い」では、2011年3月11日の東日本大震災以来、参加費の一部を被災地支援に寄付しています。
参加者の方々はもちろんのこと、主旨に賛同くださったシェフの皆様のご協力のおかげで、今回は、合計52000円の余剰金を捻出することができました。
以下の2団体にそれぞれ活動費用として寄付させていただきました。

「被災地支援団体 aoSORAnt(あおぞらん)」
フレンチやイタリアン、和食などジャンルを超えた料理人やサービススタッフなどが被災地を訪れ、炊き出しなどの支援を行う「美味しい食べもの届け隊」として発足。
現在は「被災地支援団体 aoSORAnt(あおぞらん)」に改称し、約200人の関係者が携わり、チャリティディナーや料理教室など活動の幅を広げている。
2016年4月の熊本地震や2018年7月の西日本豪雨の後にも、食による支援チャリティーイベントを開催。福島県相馬市の子供達との交流活動なども続けている。

「熊本復興支援プロジェクト」(カフェビストロ ショコラ)
2016年の熊本地震を受けて、熊本の「カフェビストロ ショコラ」オーナー宮本智久シェフが発起。仮設住宅住まいの子供達にバレンタインチョコレートを届ける活動をはじめ、食を通じて、熊本の震災復興を支援する活動を地道に続けている。

※「幸せのケーキ共和国」主催「ポワソンダブリルと桜の集い」、過去の開催についてはこちらでご覧ください。
2009年 第4回の様子はこちら
2014年 第9回の様子はこちら
2015年 第10回の様子はこちら
2016年 第11回の様子はこちら
2017年 第12回の様子はこちら
2018年 第13回の様子はこちら
2006年第1回~2008年第3回までと、2010年第5回~2013年第8回のレポートについては、掲載していたブログサービスの終了により、現在は公開されていません。時間がかかっておりますが、将来的に改めて情報をまとめ、新規公開することを検討しております。

2019/4/8|取材・レポート
PAGE TOP