「BUKOクリームチーズ コンテスト 2009」取材レポート

2009年9月30日、アーラ フーズが主催する「BUKOクリームチーズ コンテスト 2009」の実技決勝審査が日本製菓学校にて開催された。

「BUKO(ブコ)」は、酪農王国と言われる自然豊かなデンマークで健やかに育った牛の良質な生乳をはじめ、厳選された天然の原材料のみで作られたナチュラルクリームチーズのブランド。
デンマーク語で「BU ブー」は牛の鳴き声。「KO コ」は牛のことを指すという。

日本の製菓業界で、デンマーク産ナチュラルクリームチーズが使われてきた歴史は40年近い。以前は、複数のブランド名で販売されていたが、2008年からすべてのブランドを世界共通ブランド“BUKO”に統一して、同時にこのコンテストも始まった。

第2回目となる今年は、生菓子と焼き菓子の2部門が設けられ、全国からあわせて147点ものレシピが寄せられたそうだ。
書類審査を経て、決勝審査に臨んだのは10名。

結果、2部門それぞれから1名ずつの優秀賞以外にも、オリジナリティーに富んだアイデアで高く評価された作品が、急遽設けられた特別賞を受賞することになった。

受賞レシピは、今後、BUKOホームページの会員ページ My BUKOで紹介していく予定とのこと。入賞作品も全てこちらで見ることができる。

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コンテストの実技審査風景

コンテストの実技審査風景

コンテストの審査員は4名。
 樋口 保男氏 :日光総業(株)「明治の館」 取締役商品開発室長
 柳 正司氏  :パティスリータダシ・ヤナギ オーナーシェフ
 神田 広達氏 :ロートンヌ オーナーシェフ
 猪俣 幸子氏 :柴田書店『CAKEing』編集長/書籍部部長

パティシエの3氏は、現在、自分の店でも、BUKOのクリームチーズを使った商品を販売しているそうだ。

コンテスト出場者と主催者・関係者による集合写真

コンテスト出場者と主催者・関係者による集合写真

表彰式はデンマーク大使館で開催され、デンマーク大使からの挨拶や、協賛のスカンジナビア航空、株式会社ロイヤルコペンハーゲン ジャパンによる副賞贈呈など、粛々としつつも和やかな様子で進められた。

10の完成作品がスライドで映し出される様子に、デンマーク大使も、「日本の技術は高く、素晴らしい作品揃いです」とにこやかに語っていた。

優秀賞、特別賞を受賞した3人の選手たち

優秀賞、特別賞を受賞した3人の選手たち

●生菓子部門優秀賞
小野田直幸さん(マリアージュ フレール 銀座本店)(写真左)
「マリアージュ」

●焼き菓子部門優秀賞
山本晋介さん(パティスリー・ドゥ・シェフ・フジウ)(写真中)
「Gateaux basque au fromage」(ガトーバスク・オ・フロマージュ)

●特別賞
小泉彰さん(札幌パークホテル)(写真右)
「Tarte fromage fumer noix」(タルト・フロマージュ・フュメ・ノワ)

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生菓子部門優秀賞の作品「マリアージュ」

生菓子部門優秀賞の作品「マリアージュ」

ドライフルーツとナッツ、赤ワイン、スパイスとクリームチーズとのマリアージュ

ドライフルーツとナッツ、赤ワイン、スパイスとクリームチーズとのマリアージュ

●生菓子部門優秀賞
小野田直幸さん(マリアージュ フレール 銀座本店)
「マリアージュ」

この作品を作っている小野田氏の周辺は、ナッツとドライフルーツを赤ワインでコンポートする香りが一面に漂っていた。
シナモンや八角、クローブなどのスパイス入りで、アルザスの郷土菓子ベラベッカ、ホットワインのヴァンショーといった、「クリスマス」を連想させる。

赤ワインとチーズの相性のよさをイメージして、素材同士が互いにおいしさを高め合う“マリアージュ”をテーマに作ったそうだ。
ドライフルーツ自体も、ワインのおつまみとしてよく登場する。
そんな三者の組合せの妙がオリジナリティーを発揮した作品だった。

赤ワインで煮詰めたドライフルーツの中にプラムを入れることで、スポンジクラムで全体を固める時に、コンポートのジュースをうまく吸収するように調節したという。
上に波打たせてたっぷりと絞ったクレームフロマージュ、インパクトある濃厚なドライフルーツとナッツをまろやかに包みこみ、全体の一体感を高める役割をもたせている。

プレゼンの際、審査員からは、「味が強いので1個のボリュームが多すぎるのでは」といった指摘も受けたということだが、マリアージュという作品名にふさわしいバランスがとれた作品ということで、優秀賞を勝ち取った。

クリームチーズの使い方としても、ワインと合わせるといった新しい提案が込められている点が高評価ポイントとなった。

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焼き菓子部門の優秀賞作品「Gateaux basque au fromage」

焼き菓子部門の優秀賞作品「Gateaux basque au fromage」

クリームチーズのアパレイユ入りガトーバスクに模様をつける

クリームチーズのアパレイユ入りガトーバスクに模様をつける

●焼き菓子部門優秀賞
山本晋介さん(パティスリー・ドゥ・シェフ・フジウ)
「Gateaux basque au fromage」(ガトーバスク・オ・フロマージュ)

ガトーバスクは、師匠である藤生義治シェフのスペシャリテだ。
山本氏にとっても思い入れの強いこの伝統菓子のレシピを活かし、フランス菓子の古典的な手法をベースにしつつ、オリジナリティを表現した作品が完成した。

中に入れるクリームチーズをいかに引き立たせるか試行錯誤した結果、アパレイユフロマージュには生キャラメルを合わせてコクを出し、チーズの味に幅を持たせたという。
パートバスクにはメープルを加え、キャラメルの味が引き立つよう調整。

しっかりと底に焼き色がつくまで長時間焼きこんだバスク生地は、さくさくした食感。
そこにアパレイユフロマージュのコク、上に置かれたシュトロイゼルフロマージュの塩気と食感の楽しさが、バランスよく調和している。

審査員からは、「おいしい」という感想が素直に出る作品だと言われ、伝統菓子をアレンジする難しさに挑戦し、きっちりと仕上げた手腕が高く評価された。

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特別賞受賞の作品「Tarte fromage fumer noix」

特別賞受賞の作品「Tarte fromage fumer noix」

 クリームチーズの角切りをのせ、燻香をつけたプラリネを飾りに添える

クリームチーズの角切りをのせ、燻香をつけたプラリネを飾りに添える

●特別賞
小泉彰さん(札幌パークホテル)
「Tarte fromage fumer noix」(タルト・フロマージュ・フュメ・ノワ)

この作品を思いついたきっかけは、店での仕事中、オーブンの中から木枠の焼ける匂いがしてきたことだったそうだ。
そこから、スモークとチーズケーキとの組み合わせを思いついたという。

いろいろ試作した結果、プラリネをくるみのスモークウッドで燻して使うことにした。
さらに、上に飾るクリームチーズは、「BUKOクリームチーズ」をそのまま小さな角切りにカットしたもの。
クリームチーズの塩味と酸味、キャラメリゼしたナッツの燻製香との組合せが、何より印象的だ。

さらに、通常、土台に置くことの多いパート・シュクレは、セルクルで巻いて成形し、高さのある円筒状のパーツにした。フォークを入れづらいという点はあるものの、サクサクとした食感も楽しめる。

審査員からは、ナッツをスモークするというユニークな手法、飾りにカットしたクリームチーズをそのまま使うといった斬新なアイディアが評価され、急遽、特別賞が設けられるに至った。

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10人中唯一の和菓子職人による作品

10人中唯一の和菓子職人による作品

他の入賞作品は、全て生菓子部門だった。
それは、応募総数147に対して、生菓子部門への応募が121と圧倒的に多かったため、結果的にそうなったということだ。
その中で、決勝に残った焼き菓子が2つとも賞を受賞するほどレベルが高かったことは、特筆に価する。

言い換えると、生菓子でもおなじみの素材であるクリームチーズだが、どのように風味を活かし、オリジナリティーを発揮するかという点では、まだまだ研究の余地があるということだろう。

また、10作品中9作品が洋菓子だったが、その中で1人、和菓子職人として出場したのが出口勝正氏(菓子処 ふる里)。
作品タイトルは「BUKO薫る秋」。クリームチーズと抹茶を組合せた浮島の菓子で、緑から黄色へと次第に色づく秋の情景を表現した。

出口氏は、昨年に続く2回目の出場で、今回、優秀賞に迫りながらも惜しくも次点だったと審査員からコメントされた。
しかしながら、「クリームチーズは実は餡と相性がいいんです。これから、和菓子の世界にもっと紹介していきたい。」と、新たな意欲を語ってくれた。

生菓子、焼き菓子のみならず、和菓子やコンフィズリーの分野にも、今後さらにクリームチーズが普及していく余地があるかも知れない。
3回目以降のコンテスト作品にも大いに期待したい。

2009/11/3|取材・レポート
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