世界コンクール優勝ケーキ特集:「オクシタニアル」勝間建次シェフ&谷道理絵さん~「ル・モンディアル・デ・ザール・シュクレ2010」編

オクシタニアルで販売中のコンテスト優勝ケーキ2種類

オクシタニアルで販売中のコンテスト優勝ケーキ2種類

ここ数年、パティスリーの国際コンクールにおける日本代表選手の活躍には、目覚しいものがあります。
2009年の例をあげると、10月にパリのサロン・デュ・ショコラ内で開催された「ワールド・チョコレート・マスターズ2009」で「グランドハイアット東京」の平井茂雄氏が優勝。
同月、韓国で開催された「アジア・ペストリー・チーム・コンテスト2009」で、当時「パティスリー タダシ・ヤナギ」店長をつとめていた加藤大地氏が優勝。

日本人パティシエの国際的な活躍のニュースを聞くと、その現場に見にいき、感動を共有したいと思うものですが、海外で開催されるコンテストの様子を目にするというのは、なかなか難しいことですよね。

ですが、最近、そういったコンテスト優勝作品が、後日、商品化されて店舗で発売されるというケースが増えています。
たとえば、「グランドハイアット東京」では、2010年のバレンタインに平井氏の優勝作品のうち、ボンボンショコラを商品化して発売したところ、大反響を得てバレンタイン前に予定数が完売するという人気ぶりでした。
「パティスリー タダシ・ヤナギ八雲店」でも、「アンジュ」という優勝作品のケーキがプティガトーとして発売され、お客様からも好評でした。

世界で評価された味を、身近でいただくことができる貴重な機会、見逃せませんね。
そこでこの特集では、2010年に開催された世界コンクールに日本代表として出場、優勝した選手へのインタビューとともに、お店で発売されている優勝作品ケーキをご紹介します。

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ル・モンディアル・デ・ザール・シュクレの優勝カップ

ル・モンディアル・デ・ザール・シュクレの優勝カップ


●第一弾・オクシタニアル編

神谷町にある、クラブハリエが手がけるフランス菓子専門店「オクシタニアル」の勝間建次シェフと谷道理絵さんは、2010年3月にフランスのパリで開催された国際コンクール「ル・モンディアル・デ・ザール・シュクレ2010」に日本代表ペアとして出場し、日本を初優勝に導きました。

この大会は、男女ペアによる洋菓子作りの国際コンクール。
飴やチョコレート細工のピエスモンテ(大型工芸菓子)やアントルメ、ボンボンショコラなど7種類にのぼる菓子づくりの実技を3日間という長い競技時間の中で競うものです。
今回は、世界から予選を勝ち抜いた10カ国の代表が参加し、2位はフランス、3位はウクライナでした。
審査員も参加各国から2名ずつが選考にあたり、日本からは「菓子工房オークウッド」オーナーシェフの横田秀夫シェフと、「浦和ロイヤルパインズホテル」シェフパティシエの朝田晋平シェフが審査員として参加されました。

そんな大会での優勝作品より、アントルメ作品をプティガトーとした「ヴィクトワール」と、グラス入りのヴェリーヌ「エスポワール」の2種類が、現在「オクシタニアル」店頭で販売されています。
どちらも要冷蔵の生ケーキなので、お店に買いにいかないと、いただくことができません。
スイーツファンならばぜひ足を運んでみたいですよね。

「オクシタニアル」で販売中の世界大会優勝ケーキ「ヴィクトワール」(税込580円)、「エスポワール」(税込520円)

「オクシタニアル」で販売中の世界大会優勝ケーキ「ヴィクトワール」(税込580円)、「エスポワール」(税込520円)

「ヴィクトワール」(=勝利)、「エスポワール」(=希望)という意味。
作品の名前は後からつけたそうです。

「ヴィクトワール」
構成は下から順に、サクサク食感のフィヤンティーヌ・ショコラ、ダコワーズ・ショコラ、ピスタチオのブリュレ、オレンジのクリーム、フランボワーズのジュレ、ピスタチオとホワイトチョコレートのムース、ショコラのクリーム。

コンクールということを意識して、かなり多くの工程を入れた、手間隙のかかる構成となっています。
「ピスタチオというテーマが与えられて、たとえばグリオットといった王道すぎる組み合わせは避けました。」と勝間シェフ。
ご自身がオレンジが好きで、以前に作った作品でも、オレンジとフランボワーズとホワイトチョコレートといった組み合わせをしたことがあり、今回はそこにピスタチオを入れることにしたそうです。

一見、要素が多く複雑そうにも見えますが、食べたら素直にとても美味しい、というものを目指したそう。「それが、ステファンシェフのお菓子の特徴なのです」。
色々な味覚が訪れ、かつバランスが取れているという加減を求めて、ごく薄い各層のmm単位での調整も微妙に変えながら、試作を重ねたとのこと。

グリーン、黄色、赤といった色彩の対比が鮮やか。
特にオレンジのクリームの中にフランボワーズのジュレが赤い模様を描く断面が印象的です。
アントルメを仕込む時には、ジュレを同心円状に細く絞っていくことで、出来上がってカットするとこの模様になっているという仕掛けだったそう。
「コンクールの場合、審査員に対するアピールで、断面も綺麗に見せたいですし、作業をしている時に注目させるというパフォーマンスも必要だったのです。」

ピスタチオの部分は意外に軽やかですが、しっかりと味は出ているという印象。
さわやかな酸味のあるオレンジクリームとのバランスがよく、もう一口と続けて食べたくなります。
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「エスポワール」
構成は下から順に、ショコラのジュレ、レモンクリーム、バナナソテー、サクサクのパールクラッカン入りバニラクリーム、キャラメルのソース。上に丸いクランブルが2つのっています。

「ヴィクトワール」に対し、こちらは「王道」路線。
誰が食べても、どの部分を食べても、それぞれの組み合わせが間違いなく美味しいものを目指したとのこと。
同じ皿にプレゼンされるアシェット・デセールを南国系の味としたので、それとは又異なる対比的な味に仕上げたそうです。
ヴェリーヌらしく、クリームやジュレのぎりぎりのやわらかさに、サクサクのパールクラッカンが隠れているといった食感の変化も楽しいですね。

コンクールに出した時には、レモンクリームも1層外側から見える構成だったそうですが、お店で販売するにあたり、手間と時間がかかって朝からの仕込みが間に合わないため、レモンクリームをセンターとして事前に仕込んでおく工程に変更。
そのため、現在はショコラジュレの中に隠れて外からは見えなくなっています。

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~【勝間建次シェフにインタビュー】~
■Q.いつ頃からコンクールにトライしたのですか?
■A.
 滋賀県出身で、専門学校にいた頃からいずれコンクールに挑戦したいと思っており、21歳の時にクラブハリエに入社してからやり始めました。
 最初に入賞したのは、ジャパンケーキショーのプティガトー部門でした。
 でも、パティシエはやはり“飴”だ、というイメージがあって23歳から飴細工を始めます。 毎年、何かしら入賞はしたのですが、「内海杯」に初めて出した2006年は全く駄目でした。

■Q.2008年に内海杯で優勝されて、日本代表となられましたね。優勝に至る転機があったのでしょうか?

■A.
 「オクシタニアル」のエグゼクティブシェフであるステファン・トレアン氏と出会ってから、ピエスモンテに対する考え方が変わりました。
 この年、ジャパンケーキショーのピエス・アーティスティック部門でも優勝しているのですが、ステファン氏の感性を採り入れたことが大きかったと思います。

■Q.フランスの国家最高職人であるM.O.F.でいらっしゃるステファン氏ですから、何か具体的なアドバイスを受けたり技術を教えられたり、ということでしょうか?

■A.
 いえ、具体的な技術といったことではないのです。
 ステファンシェフは、アメリカで開催される「ワールド・ペストリー・チーム・コンテスト(WPTC)2008」でアメリカ代表チームの一人として優勝していますが、それを見にいった時も、自分に足りないものがおのずと伝わってきました。色彩の感覚とか、そういったことですね。

■Q.作品を作る時は、どういうことを意識し、どういうものを目指していますか?

■A.
 自分は、まず、ベースになる「流し飴」のパーツ部分から考えます。
 この「流れが綺麗なもの」が大前提になりますね。
 普段、買い物に行った時も、ショーウインドウなんかを見ながら、日常の中でヒントになるものを自然と発見しています。

■Q.今回はペア出場ということで、谷道さんとのコンビネーションも必要でしたね。
■A.
 彼女はそれ以前のコンクール経験がほとんどなかったので、デザインなどは自分が考えました。
 自分も国際大会は初めてでしたが、緊張はあまりしなかったですね。
 「やってきた以上のことは出ない」と思っていました。
 内海杯から1年4ヶ月ほどの期間に、ピエスモンテの細かい練習はほとんどせず、いきなり通し練習に入りましたね。パスティヤージュはやったことがなかったので、それはやりましたが。
 ほとんどの時間を、「デュギュスタシオン(味覚)」方面の完成度を高める試作に充てました。

■Q.コンクールで作った「味覚」審査作品の内容を教えてください。
■A.
 まずアシェット・デセール(皿盛りデザート)と、グラス入りの「ヴェリーヌ」のセットを1つの皿に盛り付けるもの。
 プティフール3種。
 「トリロジー」といわれる、「3つの関連するもの」、具体的にはアントルメ、プティガトー、プティフール。これは「ピスタチオ」というテーマが決められていました。
 ボンボンショコラ3種。中身はフルーツピューレ使用のもの、プラリネ使用でチョコレートを上掛けするもの、最後の1つはオリジナルという条件です。

 実は「トリロジー」に関してはルールの解釈が難しく、本来は同じ素材を使って全く違うものを作るといったものだったのですが、自分達は全て同じ構成でアントルメとプティガトー、プティフールを作ってしまいました。
 なので、ちょっと変化に乏しかったと思うのですが、味覚の評価結果は悪くなかったですね。

 審査基準を見ると、「味覚」部門の配点がかなり高かったのです。
 どんなにいいピエスモンテを作っても、味覚で失敗したら一気に逆転するな、と。
 世界各国の審査員がいるので、「フランス菓子」になりすぎず、誰が食べても受け入れやすいものを意識はしました。でも、味はしっかりしているもの。
 そして何より「自分が美味しいと思うもの」です。
 内海会の理事の方々はじめ周囲の諸先輩方が試食してくださって、色々とアドバイスもいただきましたが、その中で、あえて、自分自身が納得できることだけを採り入れました。
 色々と迷って人の意見に左右されてしまい、自分の中で悔いが残らないように思い切りやりたかったのです。

■Q.今後の目標はありますか?
■A.
 ひとまず、今すぐに次の何かを、というのはまだなく、ちょっと一息ついています(笑)。
 先日、船便で送ったコンクールの荷物がやっと届いて、現実にかえってそれらを懸命に洗って片付けたところでした。
 自分は、周囲のサポートも得られ、コンクールにトライするには恵まれた環境にありました。店のスタッフや後輩がコンクールを目指したい、といえば、今度はぜひ自分がサポートしたいですね。

 それから、コンクールに出した作品のうち、ボンボンショコラは、できれば今年の秋冬に発売したいと考えています。
 3種類の内容は、1つはフランボワーズジャムと紅茶風味のホワイトチョコガナッシュを使ったもの。
 もう1つはプラリネとコーヒーやアニスを使ったガナッシュ・ノワールとの2層仕立て。
 それにライムのキャラメルとヘーゼルナッツのホールの糖衣がけを入れたものです。

■・・・勝間シェフ、どうもありがとうございました。

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コンクール優勝作品だけあって、仕事量の多い凝った構成で、ボンボンショコラもかなり手間がかかりそうですが、どれも美味しそうですね。
今年の秋頃に登場するのを期待したいですね!

「オクシタニアル」を訪れると、勝間シェフが自然と影響を受けたというステファン・トレアン氏の作られた飴細工のピエスモンテ作品なども、お店に飾られています。
「オクシタニアル」チームを優勝に導いた「色彩の感性」や「流れの美しさ」を、間近に見て感じ取ってみてはいかがでしょうか。

→第二弾は「浦和ロイヤルパインズホテル」高山浩二さん~「アジア・ペストリー・チーム・コンテスト」編に続きます。

●フランス菓子専門店「Occitanial オクシタニアル」
住所:東京都港区麻布台1-11-10 日総第22ビル1階
電話:03-5574-8666
営業時間:平日/11:00~20:00、土曜/11:00~18:00
定休日:日曜・祝日
http://occitanial.jp/

2010/6/15|取材・レポート
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