岐阜「第5回大垣菓子博」レポート~水まんじゅうと和菓子を満喫!(前編)

2016年7月3日に開催された「第5回大垣菓子博」に行って参りました。
このイベントは、毎月第一日曜に駅前通りを歩行者天国にして商店街で開催している「元気ハツラツ市」の中で、年に一度、大垣菓子業同盟会青年部の皆様が中心となり、出店されてきたもの。
私は今回、「田中屋せんべい総本家」の田中さんとの対談トークショーと、前日祭で講演をさせていただくことになったのでした。

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実は、2012年の夏にも大垣を訪ねており、最初の訪問の動機は、この地の夏の風物詩「水まんじゅう」。美濃十万石の城下町として栄えた大垣は、古くから“水の都”と言われ、かつては、6つの川が市内を網の目のように流れており、豊かな地下水に恵まれた地。現在も市内を歩いていると、自噴水が湧き出ているのに出会えます。水温は14℃程で、夏は冷たく、飲用として重宝されてきたそうです。
「水まんじゅう」は、この清らかな名水によって江戸末期から明治時代の初期に生まれた大垣銘菓として知られます。大垣の地下水をふんだんに使ってさらしたあっさりした餡を、葛粉を中心に半返しにした生地で挟むように小さな「猪口(ちょこ)」に入れて包み込み、透き通るまで蒸し上げて作られるもの。大垣では、店頭で「井戸舟」と呼ばれる水場で冷やして、販売する時は器から抜いて販売する光景がよく見られます。

駅前の「金蝶園総本家」は、江戸の寛政十年(1798年)、初代の喜多野弥右エ門氏が菓子処「舛屋」を創業して以来、現在で七代目にあたるそう。
店の前には、「猪口」入りの「水まんじゅう」の猪口が沈められた水槽が置かれ、それを買い求めるお客様が後を絶ちません。店内の席でも、漉し餡と抹茶餡の2種か、それに季節の餡入りがプラスされた3種のどちらかでいただくことができます。季節の餡は、4年前には「ぶどう餡」をいただきましたが、今回は「白桃餡」でした。
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こちらの水まんじゅうは、ザクザクとワイルドに砕かれたぶっかき氷と共に水に浮かべられていて、いかにも涼やか! 冷やしすぎると、葛粉を使ったまんじゅうが硬くなってしまいますが、ほどよい冷たさ加減です。もっちりした弾力のまんじゅうにスプーンを入れると、みずみずしい中の漉し餡がやわらかくさらさらととけ出してきます。
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冷蔵庫や冷凍庫があるのが当たり前の現代ですが、江戸・明治時代の人々にとって、このひと時の涼味が、どれほど贅沢に思われたことかと思いを馳せつつ味わいたいですね。
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通年販売されている「金蝶園饅頭」は、大垣の地下水で何度もさらしてあくを抜いた生餡を、すっきりした甘味の北海道産甜菜糖で炊き上げています。周りを包む生地は、もち米のおかゆに麹を加えて仕込む「どぶろく」のような「酒元(さかもと)」という種で作ったもの。仕込み始めから仕上がりまで約2日半、その間、気温・湿度等の変化に繊細な対応を要する3回の発酵を経て、ようやく出来上がるそうです。冬の時期に蒸し立てをいただいてみたいですね!

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次に、文久二年(1862年)創業の「餅惣」へ。
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こちらには、八角枡入りのかき氷スタイルで水まんじゅうをいただける「水まん氷」がありますが、実は大垣市は「木枡」の生産において、全国の約8割を作るという日本一の産地なのです。
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店内では、小さなデジタルフレームで、「水まんじゅう」を作る手順を紹介するスライド映像を流していて、興味深く拝見しました。一般的なまんじゅうと異なり餡を生地で包み込んで手で丸めるのではなく、「猪口」に生地を流していくため、とてもスピーディー!
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水まんじゅうを主役として味わうためにと、シンプルに自家製白蜜をかけたのみの「水まん氷」と、4年ぶりの再会。かき氷を食べ進めると、中から水まんじゅうが3つ、姿を現します。細やかな氷と、もっちりと弾力ある水まんじゅうとを交互にいただくという、現地ならではの贅沢な食べ方ですね。
他にも、水まんじゅうは入っていませんが、夏限定のかき氷メニューが数種類あり、「オオガキ珈琲かき氷」は、珈琲寒天と練乳シロップを忍ばせ、上から自家製の珈琲蜜をかけたもの。実は「珈琲」という漢字の表記は、大垣出身の蘭学者、宇田川榕菴(ようあん)氏が作字したと言われ、大垣はコーヒーの町でもあるのです。こちらは4年前にいただいており、シロップはやや甘味が強めですが、珈琲の寒天はさっぱりしていて、口の中の味覚を変えてすっきりとさせてくれました。
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また、切り餅やおはぎ、団子、赤飯のような餅米を使った品が揃うのは、さすが餅屋さんならでは。淡いグリーンの生地に鮮やかな枝豆餡入りの「枝豆餅」は、丸い形で独特の香りを持つ「山帰来(サンキライ)」の葉に包まれ、夏らしい爽やかな装いでした。
現在六代目の店主が、伝統の匠の技に洋菓子のエッセンスを柔軟に採り入れて作り出したお菓子も並んでいます。「やわらかまめぷりん」は、豆乳と生クリームをにがりで固めた、カラメルではなく小豆を底に忍ばせた、いわば和風パンナコッタのような創作菓子で、第24回全国菓子大博覧会で農林水産大臣賞を受賞しています。
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今年は、大河ドラマ『真田丸』ゆかりの地としても注目されていますが、大垣城は、1600年の関ヶ原の戦いの際に当時の城主が西軍に属したため、石田三成らが入城して西軍の根拠地となった場所。そんなエピソードにちなみ、最中種の中にサブレを流した「最中とサブレ」の中でも、三成に見立てたキツネパッケージのきなこ味と、家康に見立てた狸パッケージの味噌味を詰め合わせた「合戦まっ最中!」というアソートボックスもあり、ユーモアたっぷり!プレーンの他、抹茶やオオガキ珈琲味なども揃います。

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そして、宝暦五年(1755年)創業の老舗「槌谷」へ。駅から少し歩きますが、本店の佇まいの圧倒的な迫力を目の当たりに体験していただきたいお店です。アクセスのよい大垣駅前店では、店舗限定の「水まんじゅうぜんざい」をいただくことができます。
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代表銘菓の「柿羊羹」は、岐阜県特産の「堂上蜂屋柿(どうじょうはちやがき)」の濃密な甘味に注目した四代目右助が、羊羹に利用することに成功し創製。竹の容器を採り入れたのは五代目だそう。
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三越・本和菓衆の催事で話題になった「みずのいろ」は、大垣ならではの水への思いを形にした創作菓子。赤、橙、黄、緑、青の鮮やかな5色は、人工的な着色料など不使用で、全て、ハーブなどを使った天然の色だそうです。ハイビスカス&ローズヒップの赤は湖面に映った紅葉。オレンジピールの橙は山装う木々の色。カモミールの黄は秋の銀杏並木、スペアミントの緑は山滴る木々の色。アンチエイジング効果で注目されているというバタフライ・ピーの青は空の色。見た目こそ斬新ですが、「干し錦玉」という和菓子の伝統的な手法を使っていて、色彩で四季を表しているのも和菓子らしい。こちらは現在、予約限定で販売されていますが、地元のTV番組でも取り上げられるなど反響を呼び、1日に作ることのできる数が限られているため、10日~2週間程の時間がかかるそうです。大垣を訪ねる時には、事前に予約しておけば、お土産に買って帰れますね。

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江戸時代の文久二年(1862年)創業の「金蝶堂總本店」の看板商品「金蝶饅頭」は、時の大垣藩家老にその腕前を認められた女性で、この店の初代である吉田すゑさんが褒美に賜ったという、金の蝶のかんざしに由来しています。ご家老がお酒好きだったため、酒饅頭が気に入られたとか。 ショーケースには、伝来のかんざしが大切に飾られています。

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それから、「田中屋せんべい総本家」さんへ。安政六年(1859年)創業。こちらの本店の佇まいも、味わいがあって素敵でした。
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代表銘菓の「みそ入大垣せんべい」を焼くための道具、「型」に薄い油の層を作る「つや付け」という仕事が重要で、これにより、特徴ある表面のつやが生まれます。1つの型で200枚ほど焼く間、型には油を塗り足すことがほとんどないそうです。
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飛騨・美濃10景の焼き印入りのせんべいは、催事などにはあまり出さないレアな品だそうで、大垣観光のお土産にぴったりです!
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近年は、六代目の田中裕介氏が挑戦している新しいスタイルのおせんべいも、最近、注目を集めています。「玉穂堂(たまほどう)」は、創業当時に使っていた屋号をつけたシリーズで、伝統を大切に守るという原点回帰の思いを込めつつ、今の暮らしや嗜好にもなじむよう、一口サイズで食べやすいスタイルに。高知県産の無農薬ゆずを使用した「ゆず煎餅」、かぼちゃペーストとかぼちゃの種入りの「かぼちゃ煎餅」など、味もこだわったものが揃い、「コーヒー煎餅」「ココナッツ煎餅」、さらには「ミント煎餅」といった珍しいものまで!ミント茶葉を練り込んだミント煎餅は、淡いグリーンや清々しい香りが印象的で、若い女性にも人気が高い新感覚のお煎餅です。

(→岐阜「第5回大垣菓子博」レポート~水まんじゅうと和菓子を満喫!(後編)に続きます

2016/7/22|取材・レポート
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