世界コンクール優勝ケーキ特集:「浦和ロイヤルパインズホテル」高山浩二さん~「アジア・ペストリー・チーム・コンテスト」編

「オクシタニアル」勝間建次シェフ&谷道理絵さん~「ル・モンディアル・デ・ザール・シュクレ2010」編
から続きます。

ここ数年、パティスリーの国際コンクールにおいて日本代表選手が優勝することが多くなり、その作品が商品化されて店舗で発売される機会も増えています。

世界で評価された味を、身近でいただくことができる貴重な機会、見逃せませんね。
この特集では、2010年に開催された世界コンクールに日本代表として出場、優勝した選手へのインタビューとともに、お店で発売されている優勝作品ケーキをご紹介しています。

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「浦和ロイヤルパインズホテル ラ・モーラ」で販売中のアジア大会優勝ケーキ「上海 Shanghai」(税込450円)

「浦和ロイヤルパインズホテル ラ・モーラ」で販売中のアジア大会優勝ケーキ「上海 Shanghai」(税込450円)


●第二弾・浦和ロイヤルパインズホテル編

2010年5月12日に中国・上海で開催された「第3回アジア・ペストリー・チーム・コンテスト Asian Pastry Team Contest」にて、日本チームは2008年、2009年に続いて総合優勝を果たしました。
このコンクールは、日本、中国、韓国の3カ国より、飴細工のピエスモンテ部門とショコラのピエスモンテ部門の選手が1人ずつ出場し、ピエスモンテの技術審査とアントルメの味覚審査における2名の総合点で競われるものです。

日本からは、ショコラのピエスモンテ部門の代表選手として浦和ロイヤルパインズホテルの高山浩二氏、飴細工のピエスモンテ部門代表選手として名古屋マリオットアソシアホテルの八木俊樹氏の2名が出場。

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日本チームが総合優勝するとともに、ショコラ部門ではデザイン賞1位の栄冠に輝いたことを記念して、浦和ロイヤルパインズホテルでは、コンテスト出場作品のアントルメをプティガトー仕様にした「上海 Shanghai」を発売しました。
ペストリーショップ「ラ・モーラ」でいただくことができます。

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「上海 Shanghai」
構成は下から順に、ビスキュイ・ダコワーズ・ショコラ、ムース・ショコラ、センターとして、ビスキュイ・ダコワーズ・ショコラにフランボワーズのジャムを塗り、それにクリームチーズのムースを重ねたものが入り、その上にムース・ショコラ。
上下逆さに仕込む、いわゆる「逆仕込み」の手法を取り、全体を真っ赤なフランボワーズのグラッサージュで覆っています。

ビスキュイはプードル・ノワゼット(ヘーゼルナッツの粉)入り。
下のムース・ショコラの中には、ヘーゼルナッツを粗めに砕いてキャラメリゼし、ミルクチョコレートがけしたものを混ぜ込み、ザクザクした食感と香ばしさをプラス。
外側のデコールにも、同じヘーゼルナッツのチョコレートがけを裾にまとわせ、カリッとした食感をそえています。

ムース・ショコラには苦味と酸味のあるヴァローナのエキストラビター61%を使い、真っ赤なグラッサージュは、見た目華やかなだけでなく、フランボワーズの味がかなり強く出ていて、インパクトある甘酸っぱさです。
これらの2要素がしっかりとした輪郭を描きますが、クリームチーズのムースが間に入ることで、各々が突出することなく、まろやかに味わうことができるという構成。

クリームチーズは「Kiri」を使い、レモンも多めに入れて酸味を出すとともに、パータ・ボンブのベースで軽やかなムースに仕立てたそうです。

「チョコレートのお菓子は重たくなりがちですが、チョコムースにもパータ・ボンブを入れて軽くしました。そうすることで、ラズベリーやヘーゼルナッツの味も映えますし。“もう1個食べたくなるようなお菓子”にしたかったんです。」

高山さんは、最初の修行先だった芝の「クレッセント」でシェフパティシエをしていらした柳正司シェフから、そのようなお菓子を学んだそうです。
「高校を卒業してすぐにクレッセントに入って、何もわからなかったところから、柳シェフにお菓子作りの全てを教えていただきました。」
と、敬愛と感謝を込めての一言。

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遠くからも目を引くあざやかな赤は、広いコンテスト会場の中でも印象が強く、インパクトがありました。
中国では、「赤」と言えば福を招く吉祥の色。ピエスモンテの中心部を彩る赤い花と共に、心に残る色彩で、見事な勝利を遂げてくれました。

左から名古屋マリオットアソシアホテル松島義典シェフと八木淳司さん、審査員の大山栄蔵シェフ、浦和ロイヤルパインズホテル高山浩二さんと朝田晋平シェフ

左から名古屋マリオットアソシアホテル松島義典シェフと八木俊樹さん、審査員の大山栄蔵シェフ、浦和ロイヤルパインズホテル高山浩二さんと朝田晋平シェフ


~【高山浩二さんにインタビュー】~
■Q.いつ頃からコンクールにトライしたのですか?
■A.
 「クレッセント」に入ってまもなく、19歳頃、マジパン細工から始めました。
 当時、今でいうジュニア向けの「技能五輪」みたいなものがあって、柳シェフに言われて、その予選に出たんです。
 マジパンの土台に飴細工を飾るといったもので。とにかく見よう見真似で、白鳥とか作ってもらって、教えられたことをそのまま練習して同じようにやる、という感じでした。
 今、秋田の「ストーブ」の斉藤毅さんが、当時、大型工芸をされていて、一緒に教えてもらいましたね。
 その後も、「東日本洋菓子作品展」にマジパンでは出していましたが、まだ飴細工とかには興味を持っていませんでした。

 その後、成城学園前の「成城アルプス」に入りました。
 ちょうど入社が一緒だった、フランスから帰国した太田秀樹シェフや、その前のシェフだった横川哲也さん(現「菓子工房 T.YOKOGAWA」オーナーシェフ)、霜上さん(現「ロワゾー・ブルー」オーナーシェフ)、石井さんといった諸先輩方が飴の大型工芸をされていて、その頃から興味を持ち始めたと思います。
 実際に自分でやり始めたのは、2003年に浦和ロイヤルパインズホテルに入ってからです。

■Q.そこから、ジャパン・ケーキショー、ワールドチョコレートマスターズ、
 内海杯、クープ・デュ・モンド・ドゥ・ラ・パティスリー、
 ワールド・ペストリー・チーム・チャンピオンシップ(WPTC)と、挑戦し続けていらっしゃいますね。
 どうして「チョコレート」なのですか?

■A.
 チョコレートが「言うことを聞かない」のが面白いんですよね。
 飴は曲げたら曲がるけど、チョコは曲げようとしても曲がらないじゃないですか。
 そこをどうしてやろうか、って、それにはまってしまいましたね(笑)。
 どこまでできるのか、やるのが楽しかったんです。
 今はチョコをやる人が結構増えましたけど、当時チョコって周りにやっている人があまりいなくて、朝田シェフに色々と聞きながらやっていきましたね。

 2006年にクープ・デュ・モンド・ドゥ・ラ・パティスリーの予選に出て、それまでは「持ち込み」のコンテストでしたが、その時が初めてのタイムトライアル。
 そこからは、タイムトライアルが楽しくて仕方ないんですよね。やっていると、普段の仕事も早くなりますよ。

■Q.今回の「アジア・ペストリー・チーム・コンテスト」はいかがでしたか?

■A.
 その直前、今年の3月に出場したクープ・デュ・モンド日本予選の時は、相当迷っていました。
 色々な方から、作品を見るとすぐに自分のだとわかると言われていたので、らしくない物を作ろうと思って、失敗したと思います。
 だから「アジア・ペストリー・チーム・コンテスト」では、自分のやり方に戻しました。
 ザ・ペニンシュラ東京の野島茂シェフに、それでいいじゃないかと言われて吹っ切れましたね。

 自分は、シリコンとかで型を取って作るというのをあまりしたくないんです。
 あれをすれば何でも作れるけれど、そうでなく技術だけで勝負したいと思っていて。
 「自分の作品だとわかっても、自分にしか作れないものを作ろう」と、自分の作品を進化させていこうと思いました。まぁ、自己満足なんですけど(笑)。

 今回の作品は、「自然の優雅さ」といったイメージで作りました。
 テーマは自由だったのですが、自分はそのほうがやりやすいですね。

 でも、たとえば自分は動物のモチーフを入れたりするのが苦手で、今回も蝶とか小物をつけただけですけれど、今後、シリコンの型を使ったやり方でも自分らしくできるように、というのは課題ですね。

朝田シェフの見守る中、作品プレゼンテーション最後の仕上げをする高山さん

朝田シェフの見守る中、作品プレゼンテーション最後の仕上げをする高山さん


■Q.ピエスモンテなどのデザインを考える際、普段から意識していることはありますか?

■A.
 休みの日も、町で見かけたオブジェとか、ちょっとした物でも気になったものを、何でも携帯で写真に撮りますね。形や色合いをいつも見ています。
 デパートのショーウインドウの飾り方とかも、すごく観察してます。
 女性ファッション誌とかもよく見ますよ。後輩の女の子達に頼んで、買ってきてもらったり。服の色合いとか、綺麗で参考になりますよね。
 今回の「赤と黒」みたいなのも、そういうところにヒントがあったりしました。
 上野あたりの美術館とかも結構行きますし、あと、花屋さんですね。近所に植木の専門店があって、よく行って葉っぱとかを見てきます。

 あと、自分は海が好きでサーフィンをするのですが、海の上でよく考えます。落ち着くんですよ(笑)。
 普段は茨城とか千葉あたりの海に行きますが、湘南の町は好きで、よく見にいきます。町の色使いが好きなんです。
 一つのことを思いつめると、ストレスになってしまいますが、そういう時って、ちょっと外れた所に行って考えた方がいいと思うんですよね。

■Q.今回作られたアントルメの味覚やデザインについては、いかがでしたか?

■A.
 柳シェフからよく言われたことですが、「難しく考えすぎないで、シンプルに美味しいのが一番いい」と。今回もそういうものを目指しました。
 自分は、チーズが好きなんです。チョコとチーズって、意外と合うんですよ。
 チーズを入れることで、チョコレートがまろやかに味わえるんです。

 デザインでは、「真っ赤」にしたかった。グラッサージュには色粉も入れて鮮やかな色にしています。
 今回は、形と色から入りましたね。チョコレートに合う色というのを考えた時に、赤にしようと。
 形は、丸より四角い方がカッコいいと思って。マリオットの八木くんも同じ形でしたね。別に申し合わせた訳ではなかったんですが。

 そしてピエスモンテの中に組み込もうと、上の方に入れたんです。
 よく、下の方に台座を作ってそこにアントルメを置く、というふうにしますが、デザイン全体の中に入れたかったんです。ピエスモンテの見た目も美味しそうにしたくて。

■Q.審査員でいらした大山栄蔵シェフは、アントルメについて、何かコメントをされていましたか?

■A.
 大山シェフに、チーズの味を前面に出したかった訳ではない、というふうに言ったら、「だったら狙いどおりだね」とおっしゃっていましたね。
 チーズが主役、というのではなく、全体をまろやかにするために使いたかったのが、うまくいっていたのかなと。

表彰式で優勝メダルと賞状、花束を授与された高山さんと八木さん

表彰式で優勝メダルと賞状、花束を授与された高山さんと八木さん


■Q.今回は、海外の会場での大会で、入国時の税関審査や機械系統のトラブルもあって、大変でしたね。でも、落ち着いて冷静に対応をされていたと思います。

■A.
 競技中に電子レンジが壊れて、今から調達すると言われて、えっ今から?って、30分くらい無かったですからね(笑)。
 チョコレート用のウォーマーも、見た目絶対に湯煎式だと思うのに、乾式だと言われて、色々訴えたけれど、言葉も思うように通じなくて、結局使えなかったり。
 前日に現場を見に行ったら冷凍庫が無いことがわかって、センターが固まらない!というので仕込み方を急遽変えたり。
 逆仕込みにせずそのまま絞っていくやり方にしたので、層が斜めにならないようにするのが難しかったんですよね。
 でも、そういうやり取りも楽しかった。

 今回のコンテストで一番強く感じたことは、周りの方々の力が必要だということです。
 自分ひとりでは出来ないな、と思いました。
 知らない土地で、多くの方の助けを借りられたのは、朝田シェフや松島シェフ、連合会の方々がこれまで築いてこられた人間関係のおかげですから、とても感謝しています。
 両シェフに一緒に来ていただくことができたのも、本当によかったです。自分達だけだったら、対応できなかったと思います。

■Q.上海に出店されていた柴田シェフや上海のマリオットホテルのシェフ、展示会に出展されていた正栄食品さんはじめ、現地でピエスを運ぶのを手伝ってくださった和泉シェフなど、多くの方々のご支援があっての優勝でしたね。
 お二人のブースに飾られていた、それぞれの職場の皆様からの応援メッセージの寄せ書きも、心温まりました。
 今後、またコンクールに挑戦したいという思いはありますか?

■A.
 今はコンクールよりも、「お菓子」を覚えたい、という思いが強いです。
 材料についてももっと勉強して吟味して、もっと美味しいケーキを作りたいですね。
 味覚で審査されるコンクールもあるので、そういったものには興味があります。

■Q.職場では中堅どころとして、後輩の方々を指導したりアドバイスしたりすることも多いと思いますが、どういうことを意識されていますか?

■A.
 コンクールを目指す後輩も多いですが、悪いところ、いいところをはっきり言うようにしています。そういうのをはっきり言ってくれる人って、意外と少ないと思うんです。
 具体的に指摘はしますが、強制はしない。
 自分が、いいものを作ってがんばらなくてはというのもありますね。もっと知識と技術を身につけて、下の子達に見せてあげたい。
 飴細工をやる人間が多いので、チョコの楽しさも教えたいですね。

■Q.ずっと先、10年とか20年先とかに思い描く夢はありますか?
■A.
 店を出したい場所は、もう決めてるんです!
 葉山に店を出したい。湘南の海が好きなんですね。
 浜辺で寝っころがって波の音を聞いてると・・天気がいいと最高ですよ!
 もう爺さんになったくらいの、かなり先のことかなと思いますけれど。
 カフェとか作って、海が好きな人達の溜まり場にしたいです。

■・・・高山さん、どうもありがとうございました。

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コンテストの際、浦和ロイヤルパインズホテル組の寄せ書きに書かれた朝田晋平シェフから高山さんへのメッセージは、「全力を出しきれ!そして楽しめ!!」という言葉でした。
そのとおり、多くの困難にもくじけず、全力を出し切り、かつ楽しんでいらした高山さんの作品は、とても生き生きとして美しかったと思います。

「コンテストは、諦めずにやり続けることが大事」「結果よりも過程が重要」というのも、朝田シェフがよくおっしゃることです。

諦めずに挑戦し続け、その中で、周囲の方々からの支えに対する感謝の念を新たにされた高山さんは、きっとこの優勝を機に、一段と飛躍されることと思います。
そんな先輩の姿を間近に見ながら、浦和ロイヤルパインズホテルの若手の方々も、大いに刺激されて頑張っていかれるでしょう。

今回の優勝作品「上海 Shanghai」に続き、浦和ロイヤルパインズホテルに、ますます美味しいお菓子が登場するのが楽しみですね!

●浦和ロイヤルパインズホテル ペストリーショップ「ラ・モーラ」
住所:埼玉県さいたま市浦和区仲町2-5-1
電話:048-827-1161
営業時間:
[喫茶]
 10:00A.M.~8:00 P.M.(ラストオーダー7:30P.M.)
[テイクアウト]
 10:00A.M.~8:00 P.M.
[デザートブッフェ]
 11:00A.M.~8:00 P.M.(最終入店7:00P.M.)
http://www.royalpines.co.jp/urawa/

2010/6/16|取材・レポート
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